ソーシャルビジネスを知ろう|第7回|社会課題領域へのエンジェル投資

総括としての第7回

今回の連続ワークショップもとうとう最終回になった。第7回は2025年1月24日、いつものように京大の5限の時間に開催し、参加者は19名だった。

ソーシャルビジネスを知ろう|第7回|社会課題領域へのエンジェル投資 – イベント情報

お話をうかがう渡辺雅之さんは、DeNAの共同創業者だ。本ワークショップのようなこじんまりした会でお話しいただくのはありがたいような、申し訳ないような思いもあったが、ほとんどの参加者が渡辺さんに質問するほど、充実した時間となった。終了後は参加者それぞれの個別の質問に長時間対応してくださり、会場の片付けも落ち着いたころ、「母校で話すの、夢だったんですよ。楽しかったです!」と、とびきりの笑顔でお帰りになったのがとても印象的だった。

株式会社FOODCODE 渡辺雅之さん

前半は、社会起業家と社会企業をどう位置づけるかという観点からお話をいただいた。図らずも、第6回までのワークショップを改めて振り返ることのできるお話であった。

社会起業家や社会企業の捉え方は人それぞれで異なることや、NPOの場合は事業を大きくしにくいといったお話からは、安里先生と松本先生の第3回が思い出された。何を社会課題と捉えるかも人によって異なるけれど、ビジネスを通した課題解決への取り組みという点では、第1回の西村さん第2回の小野さんの具体的なビジネスのお話に重なる部分もあった。また、どのような事業であっても、社会企業的な側面があるのだという考え方は、第6回の脇さんのお話にも出たところだ。そして、一番苦しくて、将来的にどうなるか分かっていない分野(=すぐに援助が必要な分野)になかなかお金が回らない現実があるといったお話は、第4回・第5回のtalikiの原田さん中村さんの問題意識にも共通する。

起業家というライフスタイル

後半は一転して、渡辺さんの起業家としての経験を中心にお話しいただいた。参加者の多くは、そこに一番興味を持っていたのではないかと思う。その後の質疑応答でも、「他者を巻き込む秘訣とは?」、「人脈の作り方とは?」、「学生時代から起業に関心があったか」など、「どうしたら渡辺さんのような起業家になれるか」という点に高い関心があることがうかがえた。渡辺さんご自身は、一貫して途上国の難民に関心があるのだという。そして、あまりにも自分が恵まれていることに気がつき、あまりにも恵まれていない人との間に感じた居心地の悪さをどうにかしたいという気持ちが出発点なのだそうだ。

「(参加者の)みんなが(自分のことを)すごいなって思うんだろうな、思ってるんだろうなというのは、分かる」と参加者と同じ目線に立ちつつも、「でも、上手くいくことなんて、本当に少ししかないんだ」、「もっともっとすごい上級者がいるんだ」と、大変そうなことを楽しそうにお話しになる。

私には、「起業家というライフスタイルは、冒険の旅そのもの」という言葉がとても面白かった。仲間(=賛同者)を探し、地図(=仕組み)を作り、あれこれ準備して、勝負に出たり、短期間に一喜一憂したりする。渡辺さんの考えでは、そこにはリスクもない。失敗しても、死ぬことはない。失敗しても、挑戦の過程で得た仲間や応援者がいるし、挑戦したことに対して、自分への市場的・社会的評価も上がる。

この、失敗したときにどうなるかという点が、大企業で働きながらどこかで躓いて、出世街道から外れてしまうことと決定的に違うと感じるところなのだそうだ。これまでのワークショップに参加し、あるいは今回の前半のお話を聞いて、「自分にはやはり難しい分野なのでは…」と感じた参加者の不安を打ち消すような誘い文句だ。

とはいえ、楽な世界ではない。渡辺さんには大変だったことが3つあり、一つは社交。もともと社交的な性格ではなく、楽しそうに話すことが課題だったらしい。それから、諸方面に資金援助をお願いしなくてはならないこと、断られ続けても諦めない折れない心を持つことだったそうだ。

この連続ワークショップは、文学研究科の大学院生たちのキャリアの選択肢として、アカデミアに残ったり、企業に就職したりする以外の道はないのかという問いから生まれた。学年が上がるほど、一般企業への就職は絶望的だと聞き、人生八方塞がりだと感じることもよくある。しかし、研究テーマを初めて選んだ時のように、知的好奇心をもって、冷静に周りを見渡せば、まだ開いていない冒険者の世界への扉もそこにある。

PROFILE

アカデミックフェロー

辻田明子

「ぶんこも」アカデミックフェロー。専門は古代メソポタミア史。紀元前3千年紀から2千年紀初頭に書き残されたシュメール語史料を中心に、当時の人間観・世界観・神々について研究している。最近は社会史にも関心を持ち、勉強している。ぶんこもでのイベント経験を通して、農業に興味を持ち、まずはベランダ農園で野菜を育てようと準備中。